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鳥取地方裁判所 昭和63年(行ウ)2号 判決 1992年3月03日

原告 大崎瓦鳥取販売株式会社

被告 鳥取税務署長

代理人 稲葉一人 白尾兆成 永谷進 岡垣利幸 角満美 岡田克彦 ほか四名

主文

一  原告の昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に係る重加算税及び過少申告加算税賦課決定(被告が昭和六一年五月三〇日付をもってしたもの)の取消の訴え及び右賦課決定に係る異議決定(被告が昭和六一年一〇月一七日付をもってしたもの)の取消の訴えをいずれも却下する。

二  原告の昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税の重加算税及び過少申告加算税賦課決定(被告が平成元年九月三〇日付をもってした減額賦課決定)の取消の訴えを却下する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年一二月期」といい、他の事業年度についても同様に呼称する)の法人税に係る重加算税及び過少申告加算税賦課決定(被告が昭和六一年五月三〇日付をもってしたもの)を取消す。

2  右賦課決定に係る異議決定(被告が昭和六一年一〇月一七日付をもってしたもの)を取消す。

3  原告の昭和五九年一二月期の法人税に係る重加算税及び過少申告加算税賦課決定(被告が平成元年九月三〇日付でした減額賦課決定)を取消す。

4  原告の昭和五六年一二月期及び昭和六〇年一二月期の法人税に係る重加算税賦課決定(被告が昭和六一年五月三〇日付をもってしたもの)を取消す。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(1) 請求の趣旨1、2項について

主文第一項と同旨

(2) 請求の趣旨3項について

主文第二項と同旨

2  本案に対する答弁

(1) 請求の趣旨1、2項について

原告の請求をいずれも棄却する。

(2) 請求の趣旨4項について

主文第三項と同旨

第二本件事案の概要

一  原告は、屋根工事業及び瓦販売業を営む株式会社であるところ、昭和六一年四月一四日から被告による法人税調査を受け、同年五月二四日、被告に対し、昭和五六年一二月期、同五九年一二月期、同六〇年一二月期の各法人税について修正申告(以下これらを「本件各修正申告」という)をしたが、これに対し、被告は、同月三〇日付をもって右三期分の法人税につき重加算税(昭和五九年一二月期はこれと併せて過少申告加算税)の賦課決定(以下「本件賦課決定」という)を行った。そして、その後の経緯は別紙1ないし3記載のとおりである。

なお、被告は、本訴提起中の平成元年九月三〇日、原告の昭和五九年一二月期について、別紙2記載のとおり重加算税を減額する再賦課決定を行った。

二  原告は、被告がした本件賦課決定の違法を主張して、昭和六三年八月一二日に本件訴訟を提起したところ、訴状の請求の趣旨において、昭和五六年一二月期及び同六〇年一二月期分については本件賦課決定の取消を求めたものの、昭和五九年一二月期分については異議決定の取消を求めた。しかし、別紙2記載のとおり、異議決定謄本は昭和六一年一〇月一八日に原告へ送達されているので、同日から三か月経過後に異議決定の取消を求めた瑕疵があった。そこで、原告は、昭和六三年一二月八日、昭和五九年一二月期分についても本件賦課決定の取消を求める請求の追加的併合申立をしたが、別紙2記載のとおり、裁決の謄本は昭和六三年五月一六日に原告へ送達されているので、同日から三か月を経過した後の原処分取消の申立になった。

(以上は、当事者間に争いがない事実及び訴訟上明らかな事実である)

第三本案前の主張の争点(いずれも昭和五九年一二月期についてのものである)

一  被告は、請求の趣旨第2項(昭和五九年一二月期に係る異議決定取消の訴え)及び請求の趣旨第1項(昭和五九年一二月期に係る本件賦課決定取消の訴え)は、いずれも出訴期間を経過した後の訴えであり、追加的に併合させた請求の趣旨第1項(原処分取消の訴え)についても、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)二〇条の適用がないから、出訴期間を経過した後の訴えであって、これらはいずれも不適法であり、請求の趣旨第3項(昭和五九年一二月期に係る再賦課決定取消の訴え)については訴えの利益がないから不適法であると主張した。

二  原告は、請求の趣旨第2、3項(異議決定取消及び再賦課決定取消)の瑕疵については格別の反論をせず、請求の趣旨第1項(原処分取消)の訴えの追加的併合については、行訴法一九条一項によるものであるから、同法二〇条の適用があり、右追加的併合は、異議決定取消の訴えの提起時である昭和六三年八月一一日に提起したものとみなされ、それは本来の出訴期間内であるので、出訴期間の遵守にかけるところはない、と主張した。その理由は、行訴法二〇条の立法趣旨からすれば、従前の裁決取消の訴えが適法であることを要するとの制限を付する根拠はないというべきであって、適法要件中、出訴期間のみ別異に取扱う理由もないうえ、実質的にいって原告の求めるところは終始原処分たる重加算税賦課決定処分の取消であり、その理由は原処分に存する違法であるから、同法二〇条の適用が排除されるべき事由はないというのである。

第四本案前の争点についての当裁判所の判断

一  原告の請求の趣旨第2項について

課税処分に対する異議申立につき税務署長がした決定の取消を求める訴えの出訴期間は、右課税処分に対する審査請求につき採決があった場合においても、異議申立についての決定があったことを知った日又は決定の日から起算すべきである(最高裁判所昭和五一年五月六日第一小法廷判決)から、原告の右訴えは出訴期間を徒過したものであって、却下を免れないというべきである。

二  原告の請求の趣旨第1項について

右訴えが適法であるかどうかは、本件の場合に、行訴法二〇条後段(あるいはその出訴期間救済の法理)の適用があるかどうかにかかっているので、この点について検討する。

原告は、本件の場合、行訴法二〇条後段によって、追加的併合(原処分取消の訴え)自体が、従前の訴え(異議決定取消の訴え)の提起時に申立られたものとみなされると主張するもののようである。しかしながら、行訴法二〇条後段は、併合された訴えの出訴時期についてのみ当初の訴え提起時まで遡ることを規定しているにすぎないのであって、出訴期間の遵守につき特別に救済する趣旨の規定であるから、従前の訴え(異議取消の訴え)自体について出訴期間が遵守されていることが右規定適用の当然の前提となっているというべきである。原告の解釈によれば、右規定により従前の訴えの出訴期間の誤りについてまで救済してしまうこととなるが、右解釈は右規定の前記趣旨を逸脱することになって採用できない。

以上を前提にすると、本件では、異議決定取消の訴え自体の出訴期間を徒過していることは前判示のとおりであるから、行訴法二〇条後段(あるいはその出訴期間救済の法理)の適用はなく、右原処分取消の訴えは出訴期間を徒過したものとして却下を免れないというべきである。

三  原告の請求の趣旨第3項について

いわゆる減額再更正がなされた場合、納税者は、右再更正処分に対してその救済を求める訴えの利益はないというべきである(最高裁判所昭和五六年四月二四日第二小法廷判決)ところ、加算税を減額する再賦課決定についても、右と同様、納税者にその救済を求める訴えの利益がないことは被告の主張するとおりである。よって、原告の右訴えは却下を免れない。

第五本案の争点

一  更正の予知について

本件修正申告書の提出が、国税通則法六五条五項所定の「更正があるべきことを予知してなされたものではないとき」に当たる、とする原告の主張が認められるかどうか。

1  原告の主張

被告の原告に対する法人税調査は、昭和六三年五月一四日で終了したものであるところ、原告は、右調査の終了した後、被告の指摘した「否認事項」とは無関係に、自発的に「新事実」に基づいて修正申告をしたものであり、「否認事項」と「新事実」とは内容的にみても相互に関連性のない全く別個の事実であるから、本件各修正申告は国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してなされたものではない」場合に該当する。

2  被告の主張

被告係官の税務調査は、同年五月一四日をもって終了はしていない。原告から「新事実」の申出がなされたのは調査期間中のことであり、右申出に基づき被告係官が調査、確認した後に本件申告がなされたものであるから、本件各修正申告の修正事項のすべてについて調査があったことにより、更正があるべきことを予知して、原告は修正申告書を提出したものというべきであって、国税通則法六五条五項に該当しない。

二  隠ぺい又は仮装の行為について

棚卸資産を除外して利益を調整したことが、国税通則法六八条一項所定の「隠ぺいし又は仮装し」た行為といえるか否か。

1  被告の主張

本件における原告の棚卸除外の方法は、原告も自認するとおり、<1>棚卸表の中から何枚かのページを抜き取り除外する、あるいは<2>棚卸表の金額を改ざんし、または、数量を桁違い集計して合計金額を圧縮するなどの方法で故意に、多年にわたり棚卸除外を行っていたところ、右行為が法人税の課税基準等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいした行為に該当することは明らかである。

また、同法六五条一項の過少申告加算税又は同法六八条一項の重加算税の基礎とされる国税の課税標準等は、法人税の場合には各事業年度における課税標準であり、各事業年度ごとの増加所得をそれぞれ課税対象として計算することになるのであるから、棚卸を調整して翌期へ繰越し、利益の帰属年度を異にすれば、当該事業年度の法人税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいした行為に該当するのである。

なお、原告は、昭和五九年一二月期及び同六〇年一二月期の棚卸除外として被告が主張する額には、仕入の繰上計上が含まれていると主張するところ、仮に右主張のとおり仕入の繰上計上が含まれているとしても、これは、仕入の事実のない伝票に基づき会計帳簿に仕入を計上しているのであるから、当該行為は法人税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装した行為に該当することに変わりがないというべきである。

2  原告の主張

国税通則法六八条一項にいう事実の隠ぺい又は仮装とは、売上の除外、架空仕入、架空経費の計上等で、調査時点までに所得に加算されていないものというべきである。けだし、重加算税は刑罰ではなく、行政上の秩序罰に属するものであるから、調査時点までに納税者が自主的に秩序を回復した場合は、重加算税の根拠を失うからである。

したがって、所得を翌期に繰り延べする行為と所得を除外(隠ぺい)する行為とは、重加算税の制度においては取扱が全く異なるのであり、ある期において棚卸資産を除外したが翌期に計上した場合は所得の隠ぺいに該当しない。

なお、昭和五九年一二月期及び同六〇年一二月期の被告主張の棚卸除外額の一部(同五九年一二月期の二一一万二四〇〇円、同六〇年一二月期の一五九五万一二〇〇円)は、仕入の繰上計上であるのに、被告は誤って棚卸除外額に加えているものである。

三  重加算税の計算方法について

国税通則法六八条一項によると、重加算税は、過少申告加算税額の計算の基礎となるべき税額に一〇〇分の三〇の割合(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、以下同じ)を乗じて算出した額であるが、隠ぺいし又は仮装されていない事実があるときは、右過少申告加算税額の計算の基礎となるべき税額から、隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づく税額として政令(同法施行令二八条一項)で定めるところにより計算した金額(以下「仮定税額」という)を控除した税額に前記割合を乗じて計算した金額であるところ、原告は、被告がした昭和五九年一二月期と同六〇年一二月期の仮定税額計算の基礎となる増差所得(以下「仮定増差所得」という)の算出方法を争っている。

なお、昭和五六年一二月期分の算出方法については原被告間に争いがないので、争点は昭和五九年一二月期分と同六〇年一二月期分の各仮定増差所得だけである。

算出方法に争いがあるだけであって、昭和五九年一二月期及び同六〇年一二月期の各修正申告書中、被告が過少申告加算税計算の基礎とした修正事項(別紙4、5記載の加算額と減算額)については争いがない(但し、別紙4の期末棚卸除外額及び別紙5の期首、期末棚卸除外額に仕入の繰上計上が含まれているとの原告の反論があることは前記のとおりである)。

1  被告の主張

仮定税額の計算方法は同法施行令二八条一項に定められており、これによると、隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づいて修正申告書の提出があったものと仮定し、その仮定修正申告書に基づき同法三五条二項により納付すべき税額をもって仮定税額とするというのであるから、その計算方法は通常の修正申告においてする方法と変わらず、修正事項の加算額から減算額を差引いて増差所得を算出するのであり、ただ対象となる修正事項が隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づく事項に限定されるだけである。

別紙4の番号9及び別紙5の番号11ないし13の減算事項は、隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるから、仮定増差所得計算の際の減算要素となることはいうまでもない。

別紙4の番号8及び別紙5の番号10の減算事項である期首棚卸除外額については、被告は当初、その他の減算事項と同様に隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づくものとして取り扱っていたが、後にこれを改め、隠ぺいし又は仮装された事実に基づく所得(重加算税対象所得)を構成するものとして減算要素から除外した。期末棚卸除外額は、単独で益金の額に算入されるものではなく、原価(損金)の減算要素であって、その加算要素である期首棚卸額との差額として原価を構成するに過ぎないところ、毎事業年度連続して棚卸除外が行われた場合の二期目以降は、期末棚卸除外額から期首棚卸除外額を差し引いた数値を加算又は減算修正事項に揚げれば足りるのであって、原告主張のように、隠ぺい又は仮装されていない所得から減算事項を差し引かないことにしたからではない(その結果、昭和五九年一二月期分の重加算税につき平成元年九月三〇日付で減額再賦課決定をしたが、昭和六〇年一二月期の重加算税額には影響がなかった)。

2  原告の主張

国税通則法六八条一項かっこ書所定の「隠ぺいし又は仮装されていない事実」に基づく税額(これを「仮定税額」ということ前記のとおり)の計算方法として、同法施行令二八条一項は「隠ぺいし又は仮装されていない事実のみ」に基づいて計算すべきことを要求している。

ところで、「隠ぺい又は仮装」とは脱漏所得についての概念であり、減算事項は脱漏所得ではなく確定申告所得の過大部分であるから、減算事項は「隠ぺい又は仮装されている事実」、「隠ぺい又は仮装されていない事実」のいずれにも該当しない。

同法施行令二八条一項は、「隠ぺいし又は仮装されていない事実」のみに基づいて計算するとしているのであるから、隠ぺい又は仮装されていない事実である減算事項は計算に入れない(隠ぺい又は仮装されていない所得から差し引かない)のが正しい解釈である。

換言すれば、隠ぺい又は仮装されていない事実とは、脱漏所得のうちの隠ぺい又は仮装された所得以外の所得であって、確定申告の過大部分(減算事項)の有無により変動するものではない。被告の計算方法は、隠ぺい又は仮装されていない所得から減算事項を控除するものであって、その結果、隠ぺい又は仮装された所得額を固定化して隠ぺい又は仮装されていない所得額を変動させることになるが、これでは同法六八条一項かっこ書、同法施行令二八条一項の法意を没却することになる。

第六本案についての当裁判所の判断

一  更正の予知について

1  争いのない事実及び証拠(<証拠略>)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告所部係官園山隆弘(以下「被告係官」という)は、昭和六一年四月一四日から原告の法人税の調査を開始した。

(二) 同年五月一四日、被告係官は、それまでの調査に基づく非違事項を「否認事項一覧」と題する書面(以下、右書面の記載内容を「否認事項」という)として作成し、原告へ提示のうえ、その内容を説明し、修正申告の慫慂をしたところ、原告は、否認事項のとおり修正申告をする旨述べたが、修正申告書の提出については、原告の顧問税理士日笠武四(以下「関与税理士」という)の不在を理由に同月一九日まで延期してほしい旨述べ、被告係官の了承を得た。

(三) 同月一九日、否認事項を検討した関与税理士は、昭和六〇年一二月期の脱漏所得が異常に大きいことに不審を抱き、原告に対し電話で問いただしたところ、原告から、数年前より棚卸資産を除外して利益を調整していた事実(以下「新事実」という)を打ち明けられ、右「新事実」が記載されている「覚書ノート」の内容についても読んできかされた。そこで、関与税理士は、「新事実」に基づいて修正申告をするよう原告に勧めるとともに、鳥取税務署へ電話し、「新事実」の概要を伝え、修正申告書の提出を数日間待ってくれるよう要請した。

(四) 同月二〇日、被告係官は、原告方事務所を訪れ、その場で電話により関与税理士から説得された原告から、「覚書ノート」の提出を受けたが、その内容がメモ的な簡単なものであったこともあって、その原始記録を見せるよう要請したところ、結局、翌日までに原告の方で探しておくこととなった。

(五) 同月二一日、被告係官は、原告方事務所において、関与税理士とともに、棚卸の原始記録に基づき「新事実」の内容を調査してその数額を確認したうえ、それまでに判明した結果を書面(<証拠略>)として作成し、その内容による修正申告を慫慂したところ、原告は修正申告書の提出を了承した。

(六) 同月二四日、原告は、被告に対し、本件各修正申告を行うとともに、重加算税を課さないよう要望する嘆願書を提出した。

2  右認定の事実関係によれば、以下の点を指摘することができる。

(一) まず、本件において、仮に、昭和六一年五月一四日の時点で「否認事項」に基づいて修正申告をしたならば、右修正申告書の提出が更正の予知がある場合に該当することは明らかであるから、国税通則法六五条五項の適用がないこともまた明白である。

(二) 同年五月一四日時点においては、原告は、いまだ「新事実」については明らかにしていなかったことから、右時点で明らかとなっていた資料による限り、原告としては、被告から指摘を受けた「否認事項」を正当なものであるとしてこれに基づく修正申告をせざるを得ない状況にあったということができる。このことは、原告も右同日、「否認事項」に基づく修正申告について了承していることからも窺えるところである。

(三) 「新事実」について明らかになったのは、関与税理士の説得があったとはいえ、原告自身の申告であるということができる

3  以上の点を前提として、「新事実」に基づく修正申告書の提出が同法六五条五項に該当するといえるかどうかについて考察するに、右条項の趣旨は、調査等により更正があることを予知することなく自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を歓迎し、これを奨励することを目的とするものというべきであるところ、一般に、調査があったことにより更正があるべきことを予知して修正申告をせざるを得ない状況に追い込まれたことによって、納税者が、より正確な新たな事実を明らかにしたという関係がある場合は、右新たな事実について納税者の側から申告し、これによって修正申告書を提出したとしても、右は同法六五条五項に該当するとはいえないと解すべきである。なぜなら、右のような関係がある場合には、新たな事実の申告は自発的なものであるとはいえず、結局は、更正があるべきことを予知してなした申告であると評価せざるを得ないからである。

4  本件においては、同年五月一四日の時点で、原告が「否認事項」に基づく修正申告をせざるを得ない状況に追い込まれていたことは前判示のとおりであるから、同法六五条五項の適用があるというためには、原告において、追い込まれたことによって新たな事実を明らかにしたという関係にはないことを立証しなければならないというべきである。

この点、原告は、「新事実」を明らかにしたのは、「否認事項」と「新事実」の各修正申告によって納める税額の多寡を比較してのことではなく、あくまでも、事実を申告する意図のみでなしたものと主張するもののようであり、右主張に沿う<証拠略>があるけれども、他方、前判示事実及び前掲証拠によれば、「否認事項」と「新事実」による各修正申告を比較すると、その増差所得金額(調査により増加した所得金額、以下同じ)の合計は、「新事実」による方が額が少なくなること、もっとも、延滞税を課するとすれば「新事実」による修正申告による方が納めるべき税額が高くなること、昭和六一年五月一九日、関与税理士が税務署に「新事実」の概要を述べた時点において、同人は、「覚書ノート」の内容から概算して、右増差所得金額は「新事実」による方が少なくなると考えていた(すなわち「覚書ノート」によれば、昭和五五年から毎年棚卸調整をした概算額が記載されているところ、時効にかからない昭和五六年以降の棚卸調整による増差所得金額は一〇〇〇万円〔昭和六〇年の二〇〇〇万円から昭和五五年の一〇〇〇万円を差し引いた額〕であることが判る)こと、そして、同人は、右時点(昭和六一年五月一九日)において、「新事実」による修正申告をした場合にも、延滞税につき除算期間の規定(国税通則法六一条)の適用があると考えていたため、「新事実」による修正申告の方が納めるべき税金が少なくなるとの認識を有していたこと、以上の各事実が認められるのであって、これらの事実によれば、納める税金の多寡を比較してでなく、あくまで真実を申告する意図のみで「新事実」を明らかにした旨の<証拠略>は信じ難く、他に右主張を認めるに足りる証拠もない。

結局、「新事実」の申告が、「否認事項」による修正申告をせざるを得ない状況に追い込まれたことによってなされたという関係にないことの立証はできていないといわざるを得ない。

5  以上のとおりであるから、本件各修正申告書の提出は、同法六五条五項には該当しないというべきである。

二  隠ぺい又は仮装の行為について

棚卸資産の除外は、重加算税賦課要件たる「事実の隠ぺい」(国税通則法六八条)の典型的な一場合であるところ、<証拠略>によれば、本件において原告が、昭和五四年頃より棚卸表の中から何枚かページを抜きとり、あるいは、棚卸表の金額や商品量を少なく計算する等の方法で棚卸資産額を実際の額よりも減少させていた事実が認められる。原告の右行為が故意に棚卸資産を除外する行為に該当することは明らかである。

これに対し原告は、ある期(事業年度のこと、以下同じ)に期末棚卸資産を除外してその期の利益を減少させても右棚卸資産額が翌期の期首棚卸額としてそのまま計上されることとなる関係上、翌期において右除外した分だけ所得が過大に計上されることとなり、結局、減少させた利益は翌期に所得として加算されているといえるところ、調査の時点において、右の如く翌期にすでに顕現されていれば、もはや「隠ぺい」に当たらないと主張する。

しかしながら、法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額とされているのであるところ、「隠ぺい」したかどうかもその事業年度ごとに検討すべきであることはいうまでもないから、ある期(例えばA期とする)において故意に棚卸資産を除外することによって所得を減少させる行為が「隠ぺい」に該当することは明らかであって、減少した所得が翌期(例えばB期とする)に計上されることは、B期の税額について検討する際には問題とはなっても、A期の税額を検討する際には問題とはならないというべきである。

そこで次に、前年度に棚卸除外が行われた(a円除外されたとする)場合を検討するに、この場合は、今年度においては、そもそも初めからa円だけ過大所得が存することとなるから、今年度棚卸除外をa円だけ行って初めて、右過大所得を打ち消すことができるといえ、今年度の所得を減少させるためには、a円よりもさらに大きい額の棚卸除外を行わなければならなくなる(例えばa+b円)。したがって、右の場合、今年度において、数字のうえで棚卸除外として表れる額はa+b円であるけれども、今年度独自の所得についてはb円しか減少していないといえる。そして、前判示のとおり、法人税の課税標準は、その事業年度の所得であるから、右の場合「隠ぺい」した所得は、b円についてだけであると解すべきこととなる。右のとおりであるから、本件の如く、連続した事業年度にわたり棚卸除外を行っている場合は、その期の「隠ぺい」した所得は、〔当期の棚卸除外額〕マイナス〔前期の棚卸除外額〕ということになる。

さらに原告は、昭和五九年一二月期及び同六〇年一二月期の被告主張の棚卸除外額の一部は、実は棚卸除外ではなく仕入の繰上計上にすぎないと主張する。

しかしながら、仮に、原告の主張どおりだとしても、前掲証拠によれば、右は、仕入がないにもかかわらず、架空の伝票を作成し、当該仕入を会計帳簿に計上し、他方、期末棚卸においては、当該仕入額に相当する分の在庫はないので、当然これを計上しない処理をしていた事実が認められるから、右操作によってその期の所得が減少することとなる。したがって、故意に架空の伝票を作成して仕入を計上し、所得を減少させることが国税通則法六八条の「隠ぺい」に該当することは明らかというべきである。なお、前年度に仕入の繰上計上があり、今年度現実に右仕入があった場合、今年度の計算においては、右仕入分は仕入額には加算されず、他方、期末棚卸額は現実にそれだけ増加するから、今年度ではその分過大所得が出ることとなる。したがって、仕入の繰上計上が連続してなされた場合も、棚卸除外の場合と同様、その期の「隠ぺい」した所得は、〔当期の仕入の繰上計上額〕マイナス〔前期の仕入の繰上計上額〕ということになる。

三  重加算税の計算方法について

1  重加算税制度は昭和二五年に創設されたが、その当初は、隠ぺい又は仮装に基づく部分とそうでない部分とを区別せず、隠ぺい又は仮装に基づく部分が一部でもあれば、過少申告加算税対象税額全部について重加算税を賦課すると規定していたため、納税者に責任のない部分についてまで制裁を課するという酷なものであった。そこで、昭和二八年の法改正により、隠ぺい又は仮装があっても、過少申告加算税対象税額全部について重加算税を賦課するのではなく、隠ぺい又は仮装があった部分についてのみ重加算税を課し、その余の部分については過少申告加算税を課することとし、納税者に酷な結果となる従来の規定を改め行為者責任の原則を実現した。右の改正規定は、昭和三七年に制定された国税通則法にほぼそのまま引き継がれ現行法に至っている。

2  国税通則法六五条の規定による過少申告加算税と同法六八条一項の規定による重加算税とは、ともに申告納税方式による国税について過少な申告を行った納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものであって、同一の修正申告又は更正に係るものである限り、その賦課及び税額計算の基礎を同じくし、ただ、後者の重加算税は、前者の過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由が存する場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課することとしたものと考えられる(最高裁判所昭和五八年一〇月二七日第一小法廷判決)。すなわち、重加算税は過少申告加算税の加重形態であり、かつ、特別規定であると考えられる。

3  右のような重加算税規定の改正経緯及び重加算税と過少申告加算税との関係を前提とすれば、同法六八条一項かっこ書と同法施行令二八条一項は、過少申告加算税の対象となる増差所得の全てが隠ぺい又は仮装された事実に基づくものでないときに、隠ぺい又は仮装された事実に基づく不正所得の範囲を越えて重加算税が課税されることを防止する目的の規定であるに過ぎないのであるから、隠ぺい又は仮装された事実に基づく修正事項だけを除外し、それ以外の修正事項に基づいて修正申告があったものと仮定して計算した仮定税額を差し引いた残税額を重加算税対象税額とする趣旨であると解するほかないのである。

すなわち、同法施行令二八条一項にいう「隠ぺいし又は仮装されていない事実」とは、修正事項中の「隠ぺいし又は仮装された事実」以外の全ての事項を指していると解するべきであり、仮定税額計算の基礎となる仮定増差所得の計算方法は、隠ぺいし又は仮装された事実に基づくもの以外の全ての修正事項に基づいて算出すべきことになるのである。

4  原告の主張は、「隠ぺい又は仮装されていない事実とは脱漏所得(修正申告書中の加算事項である益金の増額修正及び損金の減額修正)についての概念であり、減算事項は脱漏所得ではなく確定申告所得の過大部分であるから、減算事項は、隠ぺい又は仮装されている事実、隠ぺい又は仮装されていない事実のいずれでもない」との理論を前提として展開されているものであるが、「減算事項が、隠ぺい又は仮装されている事実、隠ぺい又は仮装されていない事実のいずれでもない」とすることに誤りがある。

現実の行為としての隠ぺい又は仮装は減算事項についてもあり、簿外仕入及び簿外売上による所得隠しの例における仕入(損金)の隠ぺい、本件のような連続棚卸除外による所得隠しの例における期首棚卸(計算上は仕入と同じマイナス要因)の隠ぺいなどであるが、これらの隠ぺいを単独でとらえると納税者にとって不利益な行為であるから、あえて隠ぺい又は仮装という必要がないだけのことである。すなわち「隠ぺい又は仮装を問題とすべきは加算事項についてだけであり、隠ぺい又は仮装された事実は加算事項のみについて認められる」とするのは正しいが、「隠ぺい又は仮装されていない事実も加算事項のみについての概念であって、減算事項にはありえない」とする論理必然性は全くない。

5  原告は、「被告の計算方法では、隠ぺい又は仮装されていない所得から減算事項を控除する結果、隠ぺい又は仮装された所得額を固定化し、隠ぺい又は仮装されていない所得額を変動させることになり、同法六八条一項かっこ書、同法施行令二八条一項の法意を没却することになる」と非難するが、3項で述べたとおり、同各条項は、隠ぺい又は仮装された事実に基づく不正所得の範囲を越えて重加算税が課税されることを防止する目的の規定であるに過ぎないのであって、不正所得額が過少申告加算税対象増差所得額の範囲内にある限りは、重加算税対象の不正所得額を圧縮しない、すなわち固定するとの法意であるというべきであるから、原告の非難は当たらない。かえって、原告の主張は、過少申告加算税対象増差所得のうちの不正でない所得を固定化し不正所得を圧縮するものであり、同各条項がこのような結果を目的としたものでないことは明らかである。

6  更に、原告は、減算事項を仮定増差所得の計算に入れることが不合理であることの根拠として、昭和五九年一二月期分の仮定増差所得の計算に関して被告が減算事項とした未払事業税一二五万七〇〇〇円の例をとりあげているので検討する。

この点に関する原告の主張は、右未払事業税一二五万七〇〇〇円が昭和五六年一二月期分の修正申告により発生した減算事項であるから昭和五七年一二月期分に計上されるべきであるのに、被告が、恣意的に、昭和五九年一二月期分の減算事項に計上して、同期の重加算税対象過少申告加算税額を増やしているというのである。

昭和五九年一二月期分の減算修正事項に計上されている未払事業税が昭和五六年一二月期分の修正申告により発生した減算修正事項であるとすれば、これはその法定納期限が属する昭和五七年一二月期分に計上されるべきものである。しかし、同期の確定申告所得は一一三六万二二八三円であったところ、本件各修正申告と同時になされた修正申告により所得額が七三万六八三五円、法人税額が一七万六六四〇円に減額されている(これは原告が自認している事実である)から、前記未払事業税一二五万七〇〇〇円を同期の減算修正事項として計上したとしても、右所得額七三万六八三五円が零になり、右法人税額一七万六六四〇円が還付される効果しか生じない。他方、前記未払事業税一二五万七〇〇〇円を昭和五九年一二月期分の減算修正事項として計上した結果、一二五万七〇〇〇円の所得減を来たし、右所得減に対応した法人税額(五四万四三〇〇円)とこれに対する過少申告加算税額の減少の効果を発揮していることが明らかである。

そして、右未払事業税一二五万七〇〇〇円を昭和五九年一二月期分の減算修正事項として計上しないこととした場合、修正申告の増差所得及び仮定増差所得はいずれも一二五万七〇〇〇円増加し、過少申告加算税対象税額及びこれから控除すべき仮定税額はいずれも五四万四三〇〇円増加するのであるから、重加算税対象部分には変化がないのである。

してみれば、昭和五七年一二月期分に計上されるべき未払事業税を昭和五九年一二月期分に計上したことは、原告に利益のためにとられた措置であって非難すべき事柄ではないのであり、また、これが減算事項を仮定増差所得の計算に入れることの不合理性を根拠づけるものでないことも明らかである。

7  被告は、平成元年九月三〇日にした昭和五九年一二月期分の再賦課決定以前には、仮定増差所得の計算において期首棚卸除外額(被告の言葉で言うと「棚卸認容額」)を減算していたが(審査請求を棄却した国税不服審判所の裁決も同じ)、右再賦課決定においては仮定増差所得の計算上期首棚卸除外額の減算をしないことにした。昭和六〇年一二月期については、期首棚卸除外額(別紙5の番号10)の他に多額の減算事項があった(別紙5の番号11ないし13)ので、期首棚卸除外額を減算してもしなくても重加算税額に変動を来たさなかったが、減算事項のうちの期首棚卸除外額だけを減算しないことにした点について原告の批判があるので検討する。

被告は、減算事項の一つである期首棚卸除外額を減算しなくした理由の一つとして、これは隠ぺいした事実に当たるからだという。たしかに、期首棚卸除外は即前期末棚卸除外であるから、加算事項の隠ぺいであるが、しかしそれは前期の所得に関してのことに過ぎない。当期の所得に関しては原告に不利益な行為であるから、これを隠ぺいだとするのは疑問である。前期末・当期首棚卸除外が過失、当期末棚卸除外が故意の場合を想定すると、この場合は当期首棚卸除外は隠ぺい行為でないことが明白なので減算せざるを得なくなり、前期、当期とも故意の棚卸除外である場合よりも重加算税が重くなって不合理である。したがって、原告に不利益な期首棚卸除外は隠ぺい行為ではないとしなければならない。

また、被告は、毎事業年度連続して棚卸除外が行われた場合の二期目以降は、期末棚卸除外額から期首棚卸除外額を差し引いた数値を加算あるいは減算修正事項に挙げれば足りるともいう。確かに、棚卸高は原価の一要素であり、期首と期末の棚卸高の差額として原価を構成するに過ぎないのであるが、原価の構成要素に過ぎないから担当官の頭の中で暗算しておけばよいというものではない。修正申告においては、期首、期末の棚卸高の修正も、他の益金、損金科目の修正と同様に、加算あるいは減算修正事項として計上したうえ増差所得を計算すべきものであるから、被告のいう右のような理由によって、期首棚卸額を仮定増差所得計算表から外すわけにはいかない。

問題は、当期末棚卸除外額全額を隠ぺい行為と見ることにある。前に述べたとおり、当期末棚卸除外額はその全額が所得隠ぺいではなく、期首棚卸除外額との差額分だけの所得を隠ぺいしたに過ぎない。すなわち、当期末棚卸除外額のうち期首棚卸除外額を越える額だけが隠ぺいした事実であるから、期首棚卸除外額及びこれと同額の期末棚卸除外額は、隠ぺいしていない事実に基づくものとして、仮定増差所得計算表に計上するのが相当である。

8  以上のとおりであるから、被告がした昭和六〇年一二月期分の仮定税額の計算は結論的には正当であるが、その計算過程は別紙5のCのとおり行うべきであり、番号15の仮定増差所得額はマイナスになるので、過少申告加算税額中重加算税を課さない部分として控除すべき仮定税額はないことに帰する。

第七結論

以上のとおりであって、原告の請求の趣旨第1項ないし第3項はいずれも不適法な訴えであるからこれらの訴えを却下することとし、同第4項の各請求はいずれも理由がないから、これらの請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 前川豪志 小林克美 村田文也)

別紙1ないし5 <略>

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